高齢者施設や医療的ケアの現場では、発熱や全身状態の変化をきっかけに尿検査が検討される場面があります。尿路感染症は、こうした現場で日常的に問題となる感染症のひとつですが、尿検査は「出せば安心」というものではありません。とくに尿培養検査は、どの方法で採尿したかによって結果の解釈が大きく変わる検査です。(1)
ここで問題にしたいのは、非侵襲的採尿そのものではありません。問題は、清潔採取が難しい尿を、尿培養検査の検体として扱ってしまうことです。
採尿方法で「データの信頼性」が変わる
尿検査には、尿試験紙などで行うスクリーニングと、起因菌の同定や抗菌薬選択に関わる培養検査があります。この2つを分けて考えることが、施設での実務では重要になります。
尿培養検査で本来見たいのは、膀胱内の尿に存在する細菌です。ところが実際には、尿が体外に出る過程で、尿道口や会陰部、皮膚の細菌が混入することがあります。これがコンタミネーション(汚染)です。
コンタミネーションが起こると、「細菌が検出された」という結果が返ってきても、それが本当に感染を反映しているのか、採尿時の混入なのかが分かりにくくなります。尿培養検査は、検査室に届く前の採尿方法や取り扱いが、結果の信頼性に大きく影響することが知られています。
採尿方法ごとの汚染率
採尿方法は大きく4つに分けられ、汚染率は採り方によって桁違いに変わります。報告により幅はありますが、採尿バックでは汚染率が非常に高く、研究によっては最大88%とされています。
| 採尿方法 | 原理 | コンタミネーション率 | 侵襲性 |
| 恥骨上膀胱穿刺(SPA) | 腹壁から直接膀胱を穿刺して採尿 | 極めて低い(ゴールドスタンダード) | 高い |
| 経尿道的カテーテル採尿(導尿) | 滅菌カテーテルを尿道から膀胱に挿入 | 低い(4.7〜29%) | 中等度 |
| 中間尿(クリーンキャッチ) | 排尿途中の尿を採取 | 高い(33〜46%) | なし |
| 採尿バック(小児・おむつ対応者) | 外陰部に袋を貼り付けて採取 | 非常に高い(最大88%) | なし |
出典:Al-Orifi F, et al. J Pediatr. 2000;136(5):689-694(採尿バック vs カテーテルの汚染率比較)、JAID/JSC感染症治療ガイドライン2015「尿路感染症」、日本泌尿器科学会『尿路管理を含む泌尿器科領域における感染制御ガイドライン』を元に作成。
バック尿だけを根拠にした臨床判断は、不要な再受診・治療・画像検査・入院が有意に増える(Al-Orifi 2000, n=4,632児・7,584検体, 補正OR 4.1〜15.6)。対象は小児ですが、外陰部や皮膚に接触した状態で尿を回収するほど汚染リスクが高くなる、という検体採取上の原則は成人・施設領域にも共通します。(5)
施設では「検査の目的」を分けて考える
そこで現場で考えたいのは、検査の目的を分けるという視点です。培養結果はそれ単体ではなく、「何のために採るか」とセットで考える必要があります。
尿試験紙による白血球、亜硝酸塩、潜血、タンパクなどの確認は、一次的なスクリーニングとして位置づけやすい検査です。一方、尿培養検査は、起因菌の同定や抗菌薬選択に関わる、より解釈の重い検査です。この2つを同じように扱ってしまうと、現場の判断がぶれやすくなります。
ここで一度、採尿方法ごとの位置づけを整理します。重要なのは、「非侵襲的に採った尿が使えない」という話ではなく、培養検査に使える尿と、スクリーニングに向く尿を分けて考えることです。
| 分類 | 位置づけ |
| 採尿バック・おむつ由来尿 | 培養には不向き。外陰部や皮膚、排泄物との接触による汚染の影響を受けやすい |
| 中間尿・導尿・SPA | 培養目的で検討される採尿方法。特に導尿やSPAは、汚染を抑えた検体採取に用いられる |
| 採尿サポートパッド(ゆらりす) | 尿試験紙によるスクリーニングや尿性状の確認に向く。培養検査の代替ではない |
この整理を、実際の検査目的に落とし込むと以下のようになります。
| 目的 | 適した検査 | 採尿方法の要件 |
| スクリーニング(健診・定期検査) | 尿試験紙検査(白血球・亜硝酸塩・潜血・タンパク等) | 非侵襲的な方法で可。中間尿や採尿サポートパッド(ゆらりす)も使用可能 |
| 確定診断(尿路感染症の起因菌同定・感受性検査) | 尿培養検査 | 導尿またはSPAなどで清潔に採取された検体が必要 |
高齢者施設や医療的ケアの現場では、全員に導尿を行えるわけではありません。だからこそ、まずは非侵襲的に得られる情報で一次評価を行い、本当に培養が必要と判断された場合に、採尿方法も含めて再検討する、という整理が現実的です。
つまり、現場で必要なのは「採れる尿をすべて同じ検査に使う」ことではありません。検査の目的に応じて、尿の使い道を分けることです。この共通理解があるだけでも、不要な再検査や不要な抗菌薬投与を減らしやすくなります。(1)

忙しい現場ほど、運用ルールの整理が重要
忙しい現場では、検査を増やすことよりも、どの目的で、どの方法で行うかをそろえておくことのほうが重要です。
施設内であらかじめ、「非侵襲的採尿はスクリーニングの入口として活用し、培養は必要時に方法も含めて慎重に行う」という考え方を共有しておくことが、判断しやすい運用につながります。
国内ガイドラインの推奨
国内の主要ガイドラインも、採尿方法の使い分けと尿培養検査の運用方針を明確に示しています。
| ガイドライン | 推奨内容 |
| JAID/JSC感染症治療ガイドライン2015(尿路感染症) | 尿培養は、検査目的に応じて中間尿または導尿など、汚染を抑えた方法で採取する。採尿バックやおむつ由来の尿は、培養結果の解釈が難しく、確定診断の根拠として扱うべきではない。無症候性細菌尿は原則として治療対象としない。 |
| 日本泌尿器科学会『尿路管理を含む泌尿器科領域における感染制御ガイドライン』 | 男性は中間尿、女性はカテーテル採尿が望ましい。採尿手技と検体管理が培養精度を左右することを明記。 |
| 厚生労働省『抗微生物薬適正使用の手引き 第四版』2024 | 無症候性細菌尿への抗菌薬投与は原則行わない。培養結果は症状・臨床所見と組み合わせて解釈する。 |

まとめ
尿培養検査は、検査そのものよりも採尿方法の影響を強く受ける検査です。
非侵襲的採尿は現場での実用性が高く、スクリーニングには有用です。一方で、採尿バックやおむつ由来の尿を培養に使うと、結果の解釈には大きな限界があります。
そのため施設では、
「非侵襲的採尿はスクリーニングに、培養は必要時に清潔採取された検体で」
という整理を共有しておくことが、検査の質と現場運用の両立につながります。
- 尿検査を行う前に、「スクリーニング目的か、培養による確定診断目的か」をまず整理する
- 非侵襲的に採取した尿は有用な場面がある一方、培養結果の解釈には限界があることをチームで共有する
- 尿培養検査が必要な場合は、症状と必要性を確認したうえで、採尿方法も含めて慎重に判断する
参考文献
- 山本新吾, 他. JAID/JSC感染症治療ガイドライン2015 ―尿路感染症―. 日本感染症学会・日本化学療法学会.
- 日本泌尿器科学会. 尿路管理を含む泌尿器科領域における感染制御ガイドライン.
- AMR臨床リファレンスセンター. 介護老人福祉施設における感染症診療および感染対策の実態調査. 2021.
- 岩坪暎二. 慢性期医療施設の院内感染実態とオムツ膀胱炎の臨床ジレンマ. 日老医誌. 2012;49(1):114-118.
- Al-Orifi F, et al. Urine culture from bag specimens in young children: are the risks too high? J Pediatr. 2000;136(5):689-694.
- 厚生労働省. 抗微生物薬適正使用の手引き 第四版. 2024.
監修: 河村峻太郎(医師・ゆらりす代表)・伊藤幸咲(感染管理認定看護師・impサポートセンター代表)

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